君色キャンバス
シン、と静まった部屋の中、祐輝はある物の下で寝転んでいた。
隣の部屋から聞こえる音はせず、辺りは薄暗い。
紺色の虚空を見つめつつ、黒いピアノの下で、祐輝はまた吐息を漏らす。
(…久岡が心配だから音楽室に泊まる俺って…ストーカーじゃねえか)
自嘲気味に苦笑し、奥の壁に目を移す。
美術室と隣り合った白い壁には、小さな沢山の穴が空いている。
祐輝は今日、音楽室に泊まる事にしたのだ。
(…だって心配じゃねえか?イジメられてっしトラウマあるらしいし…)
心の中で誰かに対するでもない言い訳を繰り返し、ピアノの下で寝返りを打つ。
__しかし、祐輝は長身のため、結果的に寝返りを打つ事はできなかった。
「うわ、せめえ!ちょー待て、無理無理無理!」
必死にピアノの下から這い出ると、
「はぁ…」
と、本日 何度目になるか解らないため息を吐いた。
立ち上がって、中庭側の壁に並べてある椅子に座ると、窓の外を眺める。
四階から眺める中庭の花壇には、薄暗がりの中で、アジサイが瑠璃色にぼんやりと浮かび上がっていた。
噴水の水は止められ、たまに吹く暑苦しい風だけが、中庭に足を踏み入れている。
しかし、ここは日本では田舎に値するため、夜はそこまで暑くはなかった。
「…暗いな…」
隣の部屋__美術室からは、何の音も聞こえない。