君色キャンバス
「…チッ」
小さく舌打ちをすると、視線を下げ、美術室前の壁に寄りかかる。
廊下の端から吹いてきた生温かい風に、茶髪がサラサラとなびき、太陽に反射して輝いた。
扉の方を見つめると__ふと、曇りガラスに人影が写っているのに、気づく。
その人影は動かず、扉の前でジッと立っているようだ。
「…久岡」
祐輝がポツリと呟いた刹那、扉の中の人影が揺れた。
扉に近づくと、取手に手をかけ、少し力を加える。
鍵がかけられているようで、開く気配はない。
その時。
人影が動いて、鍵の開く音がした。
祐輝はふぅ、一息つくと、扉を引き、美術室の中に足を踏み入れた。
__扉の前で、紗波が青白い顔のまま、立っていた。
紗波が、美術室に入ってくる祐輝の茶色い瞳を見つめる。
その黒曜石のような瞳は__苦痛と、悲しみに、満ちていた。
美術室の中は、カーテンを閉め切っているためか、少しばかり薄暗い。
顔は無表情のまま、紗波の感情を表しているのは、その黒い瞳だけだ。