君色キャンバス
祐輝が足を進めると、紗波も少しうつむき、美術室の奥へと歩いて行く。
紗波は、椅子に座ると、テーブルの上に置いてあった鉛筆を握り、紙に絵を書き始める。
フッと視線を横に動かすと、紗波の座る椅子の近く__美術室の真ん中に、祐輝の目を釘付けにした物があった。
「…これ…もしかして」
祐輝がゆっくりとその物に近づいていき、驚きを隠せないような表情で、凝視する。
朝だというのに暗い美術室の中で、それは一層 暗さを際立たせた。
それは__灰色に染まった絵。
紗波が描いたと思われる絵が__全て、灰色に塗りつぶされている。
「…灰色?」
紗波が苦しげに息を吐く音が、美術室に響いた。
その絵は、かろうじて端の部分の色は残っているが、殆どを灰色が染めていた。
その灰色は薄汚く、昨日の雲を思い出させる。
「…これ、久岡が塗った?」
祐輝の声色は明るいが、少し引きつったような口調だ。
シン…と静まる美術室。
「…うん」
という、紗波の声だけが、祐輝の耳に聞こえた。