君色キャンバス
しばし、沈黙が辺りを支配した。
青いカーテンは静かに佇み、紗波の黒く長い髪がサラサラと揺れる。
「…へぇ…久岡か」
祐輝が、引きつった口調で呟くと、そのキャンバスから目を離した。
灰色の__灰色だけの絵。
乾いた笑いを漏らして、祐輝はできるだけ軽い声で、呟いた。
「…新しい絵を描いたんだな。…そういや、久岡ってあんまりタイトルとかつけねえよな。タイトルとかあんのか?」
祐輝に背中を向けている紗波の持つ鉛筆が、止まるのが見えた。
__やや間があって聞こえたのは、黒い声だけだった。
「…『闇色』」
「…え?」
__言葉を失った祐輝の方を向き、紗波が言った。
「それが、その絵の名前」
祐輝が何かを言おうと口を開く。
__それを遮るように、紗波が暗い声で言葉を紡いだ。
「流岡…もう、私に関わらないで」
祐輝が、驚いた表情で、紗波の顔を見つめた。