君色キャンバス




私に関わらないで。



__そう言った紗波の顔はなんの表情も見せず、冷たい瞳だけが、異様に光って見えた。



静寂が、美術室を訪れた。









やがて、祐輝が言った。



「…解った」



ゆっくりと扉の方へ、ポケットに手を突っ込んで、歩いて行く。



鍵を開け、扉に手をかけると、耳に聞こえた暗い言葉__



「…私は二度と…笑えない」



扉を開けると、爽やかとも蒸し暑いとも言えない風が美術室に流れ込んだ。



その風にカーテンが揺られ、少しだけ、隙間から太陽の光が漏れる。



祐輝は扉の外の方を向いて、紗波の呟きに答えた。



「…俺が久岡を、笑わせてやる」



そのまま、祐輝は美術室から出ると、中を見ずに扉を閉めた。



右手で目をこすると、天井を見ながら、祐輝は独り言を呟いた。



「…ぜってえ、笑わせてやるからなっ…」



複雑な表情で、ジッと天井に走る亀裂を睨みつける。



(…クソが)



綺麗な青に染まった空に、一羽の小鳥が飛んでいた。



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