君色キャンバス
紗波の髪が、サラサラと揺れる。
「久しぶりー」
祐輝が困ったように笑ってから、頭を搔いた。
外は涼しいようで、時折、なだらかな風が廊下を流れていく。
祐輝の笑顔を見た時、また、紗波は心に、黒い絵の具が広がるのを感じた。
__闇色は、心を塗りつぶす。
「なんで来たの…?関わらないでよ…」
紗波の黒曜石の瞳が、鋭利な光を放って祐輝を睨みつけた。
その瞳に、感情はない。
紗波の言葉に、祐輝は軽い口調で返す。
「まぁ、そう言うなって。それに俺、関わってねえよ?」
「…関わってる」
「関わってねえし、これから関わるつもりもねえって」
紗波の瞳の鋭さが増すのを見て、祐輝がハハッと笑う。
緊張感が美術室に漂う中で、祐輝は囁いた。
「別に、久岡と関わりたいとは思ってねえよ」
「じゃあ、なんで私に…」
紗波の声が、心なしか不安を含んだような震えた音になる。
祐輝はとても優しそうな、満面の笑みを浮かべて__その問いに、答えた。
「俺はただ、久岡を…笑わせてえだけ」
開いた扉から吹いてきた風が、紗波と祐輝の髪をなびかせた。
ふわりと、辺りに石鹸の匂いが舞った。