君色キャンバス
紗波がジッと祐輝の茶色い瞳を、無表情のまま、見つめる。
祐輝はニコニコと微笑んだ表情で、紗波の揺れる髪を眺めた。
その状態が、二分ほど経った。
「…?俺、おかしい事 言ったか?」
祐輝はそう言うと、美術室の中に入ろうと足を進めた。
その茶色い瞳から視線を外し、黙って身体を横にずらす。
祐輝が美術室に足を踏み入れ、真ん中のキャンバスへと歩み寄って行く。
紗波が扉を閉めると、また、美術室はむわりと湿気が留まり始めた。
祐輝の方を振り返れば、キャンバスの前に立って、腰に手を当てていた。
紗波の着ている服は夏の制服なのに対し、祐輝の服装はとても涼しそうな、真っ白いシャツだ。
「…これも久岡?」
キャンバスに描かれた赤い海を見て、祐輝が怪訝な表情を浮かべる。
「…そう」
紗波はキャンバスに近寄ると、荒れ狂う海を冷たい眼差しで眺めた。
祐輝は何かを考え込んでいたが、やがて太陽のような笑顔で、
「久岡、海 行こうぜ」
と、言った。