君色キャンバス
「…なんで」
紗波は、凍てつきそうな声で、言った。
祐輝が楽しげに頭を搔いて、右手に持っている鞄の方を向く。
「海を描いてるって事は、イコール海に行きたいって事だろ?」
明るい太陽が、青いカーテンの隙間から光を漏らす。
「…それに、俺、久岡と海に行くつもりで来たし」
「…え?」
祐輝は紗波の手首を掴むと、美術室から連れ出した。
廊下を、祐輝に連れられて、紗波は髪を風に吹かせながら、歩いて行く。
祐輝に握られた右手首は暖かい。
外に出ると、学校の裏にある駐車場へと向かった。
そこで目にしたのは、灰色のひさしの下に佇む、黒いバイクだ。
祐輝は手を放し、バイクにまたがると、エンジンを入れた。
ふかしたらしく、ブロロロロ、と大きくも心地良い音が駐車場に響く。
祐輝はまたがったまま、後ろを向いた。
「後ろ乗れよ。ノーヘルだけど」
「…免許は」
「…事故ったことはないから大丈夫。捕まらねえって」
紗波は、バイクの後ろに座った。
駐車場から出て、表の道に出ると、祐輝は言う。
「…てろよ」
何を言われたのか、エンジン音でよく聞こえなかった。
背中を抱き締めると、ドキドキという音が、祐輝から聞こえた。