君色キャンバス
紫色
サァァァ、っと、優しい風が紗波の髪を揺らす。
ここは屋上。
町の隅々を見渡せる、紗波の絵描きポイントの一つだ。
もちろん、今は授業中のため、ここには誰も居ない。
紗波は、灰色の、腰までのフェンスに寄りかかると、大きく深呼吸をした。
暖かい空気が、身体に流れる。
ノートを開けると、目の前に広がる町を描き始めた。
向こう側の、新緑色の山と空が、綺麗にマッチしている。
髪が邪魔だからか、手につけていたゴムでギュッと一つに縛った。
頬が風に撫でられていく。
数学のノートに、黒い濃淡の絵が現れる。
六限目が終わる頃に、また、美しい作品が出来上がった。
山と空と町。
しかし、そこには、暗い暗い影が落ちていた。
暗い空、暗い町、暗い山。
紗波はノートを床に落とすと、その場に寝転び、広大な空を見た。
黒い瞳が、空色に染まる。
しかし、その瞳に光は映らない。
たまに、雲の流れていく彼方に目をやった。
十分ほどが経った。
ノートを拾い、立ち上がる。
教室に戻ると、すでに挨拶を済まして、殆どが帰っている。
小百合が紗波を見つけると、駆け寄って
「さ、一緒に帰ろう?」
と、生徒鞄を紗波に渡した。