君色キャンバス
祐輝は国道などを通らず、紗波も知らない細い道を走って行く。
バイクを運転する祐輝に、紗波は聞いた。
「…なんで…私を笑わせたいの…」
祐輝が道を左に曲がると、身体も左に傾いた。
祐輝の身体をギュッとつかむと、また、安心感に満たされる。
「なんで笑わせたいか、って言われてもなぁ…」
後ろから見た祐輝の耳が、少しずつ赤くなっていく。
「俺が、久岡の笑顔を見たいから、とか?…くせえ台詞だな」
紗波は目をつぶると、エンジンが奏でる騒音と、祐輝の鼓動のリズムに耳を澄ます。
祐輝の背中が盾になっているものの、前から吹く向かい風が、暑い夏に気持ちが良かった。
目を瞑ってしばらく経つと、祐輝が紗波に話しかけた。
紗波は返事をすることもないが、祐輝は穏やかに囁いていく。
「海か…かなり昔に行った記憶しかねえな。久岡は行った事あるか?」
紗波の背中を、追い風が押す。
目を開くと流れる街並みは、紗波は見た事がない。