君色キャンバス
「海って綺麗だよな。行ったら泳ぐ?タオルは持ってきてるけど。…制服で入るのは無理か」
出発してから、もう二時間が経ち、時刻は九時ほど。
時折 風の中に混じる、ツンとした潮の香りが鼻を突く。
「…泳ぐのは無理か。じゃ、海の近くでも歩いとく?かなり楽しいけど」
やがて、バイクは一つの大きな、しかし車通りのない寂しい道にやってきた。
海沿いの道。
ガードレールと約一メートルの壁の向こうに、青く輝く海が見える。
空に飛んでいるカモメと、崖に囲まれた、小さな白く光る砂浜も見えた。
「…やっと着いたか」
祐輝が呟いた。
バイクは、潮風の吹く駐車場へと入って行く。
他に、車やバイクは一つもない。
祐輝はバイクを止めると、エンジンを切り、降りた。
紗波も、祐輝の後ろから降りる。
そして、二人で少しだけ急な、なおかつ狭い坂道をゆっくりと下った。
そして、坂道を下り切り、最初に目に止まった物は__砂浜に落ちていた、綺麗な巻貝の貝殻だった。
祐輝はそれを拾うと、自らの耳に当てていた。
「…何をしているの」
緩やかな潮風に、紗波の黒髪が揺れる。
「ん…海の音を聞いてる」
卯花高校の中庭ほどの、崖に囲まれた小さな小さな砂浜に、その黒髪はとてもよく映えた。