君色キャンバス
金木犀色
夏休みは過ぎ__やがて、始業式も終わり十月十四日になった。
海に行ってから、紗波は祐輝とも、小百合とも少しも関わってはいない。
毎日 繰り返される光からのイジメに、堪えきれなかっため、不登校にこそならなかったものの__美術室にこもり切りだった。
まだ太陽は力を緩めこそしないが、段々と日が昇るのは遅くなってきている。
小百合は、心配だった。
毎日、二十分休みに中庭に行くが、そこには何人かの生徒の姿があるだけで、紗波の姿は無い。
小百合は秋空の広がる中、ベンチに座り、金木犀の香りを吸い込む。
そして、はぁ、と息を漏らした。
金木犀の木の方をみると、華奢な幹の下に夕焼け色の小さな花が落ちている。
立ち上がり、金木犀に近寄ると、夕焼け色の花をつまむ。
すると、花は儚く指の間から消えた。
「…紗波は大丈夫かな」
フッと呟くと、金木犀の側から四階の美術室を見上げる。
「…あっ、小百合じゃん!」
その刹那__小百合にとっても、二度と聞きたくはない鼻にかかった声が、耳に入った。
身体が、知らず知らず、固くなった。