君色キャンバス
祐輝は、二十分休みの始まるチャイムが鳴ると、中庭に出て、奥のベンチに座った。
紗波がいつも座る、対角線上にあるベンチを眺めながら、微かな期待を持つ。
(久岡…来ねえよな)
ジッと目を凝らして見るが、見えるのは他の生徒ばかりだ。
息を漏らすと、祐輝は背もたれに寄りかかり美術室を見上げた。
(たまに来てみるものの…来る気配ねえしなぁ)
見上げた美術室の上には、真っ青な秋空が広がっている。
ぼんやりと空を眺めていた時、不意に甘い匂いが鼻を突いた。
その匂いは華々しく謙虚で、透明な空気を染めているように思える。
祐輝は地上に視線を戻すと、その香りを探す。
そして、見つけた金木犀の前には、なにやら鋭い雰囲気をまとった小百合と、笑う光が居た。
近づくのには気が引け、声が聞こえる範囲まで歩く。
「…も過ぎる!」
光が、小百合を馬鹿にしたような大きな笑い声をあげる。