君色キャンバス
一人、小百合が話しかけている状態で、靴箱までを歩いて行く。
「五限目、中木先生、『久岡はサボりか?』って呆れてたよ」
「…そう」
正直、紗波は、自分の事に余り興味が無い。
自分が馬鹿だと思われていても、何も感じないのだ。
例え、イジメられて、居たとしても。
靴箱から下靴を取り出すと、逆さまにするようにつまみ上げた。
チャリリン、チャリン…
その小さな物体は、床に当たって高い音を響かせる。
「…紗波、やっぱり先生に言おう。イジメられてて、悲しくないの?」
「…全然」
小百合が、床に落ちた“画鋲”を取って、掌の上に乗せた。
小さな画鋲の針の先端が、金色に反射して輝いている。
「いくらどうでもいいからって…抱え込んでると、危ないよ」
「…抱え込んでない」
いつも通りの素っ気ない声で、紗波は言った。
紗波はイジメられて居る。
画鋲入れは当たり前で、机の上の落書きも当たり前。
全ての原因は、紗波が“天才”という事に対する嫉妬。
勉強をせずとも学年トップ、見てくれも良く天才的な絵を描く紗波に対する嫉妬だ。
下靴を履くと、紗波はなんでもないように歩き出す。
画鋲は、靴箱の上に置かれている。
(また、明日の朝も…)
小百合はその事に少し、恐怖を抱きながら、夕日で赤く染まる道を、紗波と帰って行った。