君色キャンバス
その声を聞いた途端に、一秒間の頭痛を感じた気がした。
片眉を下げ、小百合から光に目を向けると__その笑みが消えたのを見た。
「…それに、なんでイジメをやめなきゃなんないの?久岡が悪いのに」
「…は?」
思わず声を出してしまい、祐輝は慌てて後ろを向く。
幸いにも聞こえていなかったらしく、声をかけられる事はなかった。
(…久岡が悪い?んな訳ねえだろ…)
憤りを押し殺す。
「…勉強しても敵わないんだから、しょうがないでしょ?」
そんなのはてめえの事情だろ、と心の中で悪態をつくと、いつもとは真逆の、光の声が耳に入った。
「…絶対にやめないから」
祐輝は、なんとなく引っ掛かりを覚えた。
光が離れ、校舎へと入って行くのを見届ける。
小百合が、金木犀の前でしゃがみ、花を摘んでいる。
(…んな事すんなよな)
祐輝は金木犀を眺めてから、
「なんなんだ?あいつ」
と、言った。
小百合が振り向き、
「…見てたの?」
と、返事をする。
ポケットに手を入れ、光の消えた曲がり角の方を見ながら、祐輝は一言
「見てた」
と、呟いた。