君色キャンバス
中庭に風が雪崩れ込み、より一層、金木犀の香りを撒き散らす。
小百合は、再び幹の方に身体を向け、花を拾っていた。
手のひらの上には、二十個ほどの金木犀の花が乗っている。
小百合は甘い香りを嗅ぎながら、祐輝が喋り出すのを待っていた。
「…でも、あいつ…なんか訳ありな気がすんだけど、気の所為か?」
祐輝の言葉に、ピタリと右手の動きを止める小百合。
「…気の所為だって」
いつもの小百合の声とは、比べものにならないほどの__冷たい声。
その声には、呆れと、一種の憎しみが混ざっている。
「…解らねえぜ。もしかしたら、なんかあったのかも…」
小百合がバッと立ち上がった。
「ある訳ないじゃない!」
祐輝の周りに、夕焼け色の花が幾つも広がった。
その花は制服に乗り、風に舞う。
小百合は黙って、祐輝を見つめている。
その右手は、前に突き出されていた。