君色キャンバス
制服についた花を払いながら、小百合の方を向く。
紺色の制服に、夕焼け色の金木犀は一際 目立って見えた。
「…なにすんだよ」
はぁ、と小百合がため息をつく音が聞こえた。
「…紗波をあんな目に合わせて、何か訳があったからって許せるほど、私は強くない」
右手を身体の横に戻し、グッと握りしめているのが見える。
「傷ついてる紗波を、あんなに平気で傷つけて。幼馴染だから、余計に思う。私は光の事、許せない」
いつもなら、優しく光っている小百合の瞳が、憂いを帯びた色をしていた。
「でも、もし…」
「聞くけどね…流岡は許せるの?…紗波の事が好きなくせに」
「…っ…」
言葉が、詰まる。
正直にいうと、祐輝も光の事を許せる自信がなかった。
訳があるようには見えたが、紗波を攻撃し、美術室にこもらせたのは光だ。
紗波の事が好きなくせに。
__小百合のこの言葉が、祐輝の心を突き刺した。
キーンコーン、とこの場に不釣合いな、軽く重いチャイムが鳴り響く。
その音に共鳴するように、金木犀の木がサワリと揺れる。
「…私には、無理…じゃあね」
小百合も校舎内に入って行き、他の生徒達も次々と中庭から出て行った。
一人の中庭、金木犀の側で、呟く。
「…俺だって…無理だよ」
祐輝も校舎に入ると、四階まで続く階段を駆け上った。