君色キャンバス
一限目が始まるチャイムが聞こえる。
紗波は教室に戻る事もなく__美術室の床で一人、寝転んでいた。
太陽の光りがカーテンを通り、美術室の中はほんのりと海の色に変わっている。
八月十五日、祐輝と海の中で見た景色と美術室が、重なった。
立ち上がり、白いキャンバスを引っ張り出すと、絵の具をパレットに乗せる。
筆が、キャンバスの布地の上で踊る。
キャンバスが、みるみるうちに、蒼く紅く染まってゆく。
二限目が終わった、重苦しいチャイムが鳴った時__
キャンバスに描かれていたのは、蒼く輝く海と紅い夕陽だった。
あの日、祐輝と砂浜に座り、眺めた夕陽が、海を照らしている。
「…っ」
動きそうになる手を押さえ、海に沈む紅い夕陽を見つめる。
パレットと筆を置くと、青いカーテンの隙間から、顔を覗かせた。
中庭の端に目立つ、オレンジ色の金木犀を見ると、今にも香りがしそうだ。
美術室の扉まで歩いて行き、扉を開けようと手をかけた。
__その手を、すぐに引いた。
扉の向こう側から、また、あの黒い笑い声が聞こえてきた。
「…ははははは!久岡 居ると思うー?」
「居るんじゃない?美術室に引きこもってるらしいし?」
「本当、気持ち悪い…ちょっとからかわれたからって、引きこもりになんなっつーの!」
雪、春奈、真美の声がした。
紗波は床に座り込み、頭を抱え込んだ。