君色キャンバス
「ねぇー、天才ちゃーん!居ますかー?アハハハハッ!」
美術室の中を、吹雪が吹き抜けたような気分になり、身体に鳥肌が立つ。
冷たい。
「…アハハ!本当に久岡って凄いよね!あんな綺麗な絵 描けてさ!」
ズキズキと頭の中を闇が蝕んでいく痛みを我慢し、震えながら立ち上がる。
「ねぇ、見せてよ天才!」
(違う…天才じゃない…)
鋭い頭痛に堪えながら、タンスの上においた筆を持つ。
パレットに無造作に筆をつけると、赤、青、黄、白、黒の絵の具がまざり、どす黒い液体になる。
紗波を嘲笑う声は美術室の前から動かず、たまにドンと扉が叩かれた。
(…天才じゃない、天才じゃない!)
筆の切っ先を海と夕陽のキャンバスに向け__一面をどす黒く染めた。
キャンバスの上は、紅と蒼も混じり、見るに堪えない色になる。
「おーい、天才ちゃん?」
雪の、哀しみの欠片もないような、楽しげな声に震える。
筆が床に落ちる。
ガタッと、扉が鳴ると、紗波の身体もビクリと震えた。
青いカーテンが揺れる。
震える身体を押さえ込む事はできず、冷たい床に寝転び、紗波は身体を抱きしめた。