君色キャンバス
ギーン…ゴーン…ガーン…ゴーン…
チャイムと共に頭痛は消え、笑い声が聞こえなくなる。
しかし、紗波の身体の震えが止まる事はなく、黒い髪は揺れていた。
チャイムが鳴ってから、三分ほどが経つ。
紗波は、自分が塗りつぶした汚らしい絵を見つめた。
ますます激しくなる身体の震え。
その感情の込もっていない絵に紗波が感じたのは、過去の、紗波の母親の振り上げられた右手と__
自分自身の、絵を描く才能の高さに対する“恐怖”だった。
絵の才能が高いからこそ、不幸が自分を襲い、感情が消えたと考えていた。
__ギュッと、自分自身を抱きしめる。
その時__コンコン、と優しげなノックの音が美術室に響いた。
ビクリ、と身体を揺らす。
「…誰」
自分で聞いても解るほどの暗い声と、震え。
「…俺だよ。流岡」
とても穏やかな声を聞き__紗波は、あの安心感に包まれた。
扉の前の、背の高い人影を見て、すぅ、と身体の力が抜けていく。
__心は祐輝の侵入をとっくに許したというのに、身体は、拒んだままだった。
「…っ、来ないで!」
祐輝をはねつける言葉を話す自分に気づき、更に震えていく身体を、自分自身で抱きしめる。
扉の外から、祐輝の声が聞こえてくる。