君色キャンバス
金色
コンコン、と美術室にノックの音が響き、紗波を起こした。
青いカーテンの向こう側から、薄暗い光が差し込む。
紗波は眉を顰め、すっと起き上がると、扉の方を向いた。
長身の黒い影と共に、淡く青い空気に乗って優しい声が聞こえる。
「久岡、起きてるか?」
壁にかけられた時計を見ると、時の針は午前、七時六分を指していた。
紗波がゆっくりと立ち上がり、紺色のスカートをはたいて、扉へと向かう。
「…起きてる」
大きく息を吸い、ゆっくりと、吐く。
カチッと軽やかな音を立てて、美術室の鍵を外す。
肌寒い風が美術室に入ってきて、紗波は思わず身震いをした。
祐輝が、扉を閉めず、十センチメートルほどの隙間をつくる。
「おはよ」
「…おはよう」
不意に、茶色い瞳と目が合い、紗波はソッと視線を横に向けた。
爽やかな冷たい風が、息をする度に身体に入り、心地よい。
視線を向けた先には__昨日 絵の具で塗りつぶした、蒼い海の描かれたキャンバスがあった。
「…またかぁ…」
祐輝が、キャンバスに歩み寄る。
「…もったいねえな」
紗波は無言のまま、青いカーテンを引いた。
窓の向こうの山並みを、赤、黄、緑の、美しい紅葉がぼんやりと彩っている。