君色キャンバス
「…久岡って、器用だな、やっぱ」
穏やかな低い声を聞いて、紗波は閉じていた目を開いた。
そしてもう一度、反射的に目をつぶる。
パッと、紗波の黒曜石の瞳に飛び込んできたのは__鮮やかな、紅葉だった。
その華やかさに、一瞬、目眩を感じた。
「…お、起きた?よくバイク乗りながら寝れるよな。羨まし」
「…ここ、どこ」
上を見上げると、赤や黄色の葉の向こう側には透き通った青空が見え隠れし、鮮明な対比を奏でる。
駐車場らしく、二つほどバイクも置かれていたが、辺りに人影はなかった。
コンクリートの無愛想な灰色の地面が、美しい落ち葉に飾られている。
「ん?…山」
「…山?」
澄んだ空気に混じる、苦い、しかしほんのりと甘い香り。
祐輝は紗波を連れて、秋の山の奥へと歩いて行く。
地面に落ちた葉を踏むたびに、くしゃり、くしゃりと心地いい音を立てた。
「たまには、学校サボってどっか行くのもいいな」
祐輝が笑う。
紗波は、近くのカエデの、ザラザラとした焦げ茶の木の幹に触れた。
一枚のカエデが舞った。
「たまに、思うんだけど」
祐輝が、自分の天上にそびえ立つ木の枝を綾なす紅葉を眺め、囁く。
「…久岡って、本当は感情あるだろ?」
紗波はゆっくりと、祐輝の方を向く。