君色キャンバス
祐輝を見つめる紗波の表情には、なんの感情も写っていない。
ただ__祐輝を映すその瞳は、微かに揺れている。
祐輝が、自分の頭の上に垂れ下がった枝に手を伸ばす。
幾つもの紅葉が、枝に咲いていた。
「…」
祐輝が紅葉を手に取った。
祐輝が、木の枝から一枚、イチョウの扇形の葉を千切り取る。
カエデ、モミジ、イチョウ。
様々な形の葉が散っていき、それぞれの色が交差する。
「だって…久岡はさ、“恐怖”、っていう感情があるだろ?」
「…知らない」
さわさわさわ、と涼やかな風が木の葉を揺すった。
祐輝が、自分の手のひらにある黄色いイチョウを眺め、青空にかざす。
「確かに、普段は感情がないように見える。…でも、俺には」
太陽に当たり、儚い金色に輝く林の中。
色とりどりの葉の間から漏れる光りは、艶やかな紗波の黒髪を際立たせる。
「…久岡が、感情を押し殺してるようにしか、見えねえんだよ」
憂いを帯びた微笑みを紗波に向け、祐輝は言った。