君色キャンバス
「…久岡」
祐輝が、向こうの方を向いたまま、紗波に言う。
「…今くらい、感情 出せば良いんだよ」
そう言った祐輝の白い顔は、モミジのように赤く染まっている。
唇を尖らしているのが見える。
紗波はそんな祐輝の顔を、ジッと眺めた。
「…別に」
茜色の空もだんだんと暗くなっていく。
二人はバイクに乗ると、また、もと来た道を引き返した。
冷たいような、暖かいような風が前から吹いてくる。
「…」
ギュッと祐輝を抱きしめると感じる、暖かい体温に身を委ねそうになった。
祐輝の背中に耳をつけると聞こえる、ドキドキと言う鼓動に、紗波の口角が少しだけ上がる。
祐輝は、紗波を家の前で下ろすと、手を振って言った。
「じゃあな」
__家に入ると、祐輝からもらったイチョウを水で丁寧に洗った。
そして、ノートを破ると、その間に挟み、厚い本の一ページに差し込む。
屋根裏に、ごく少量の、イチョウの匂いが浮かんだ。
その夜。
無表情で、紗波は眠りにつく。