君色キャンバス
撫子色
「…ん…」
柔らかく仄かに匂うイチョウの香りに、紗波は目を覚ます。
天窓から見える空は、少量の黒を白の絵の具でとかしたような灰色の雲が浮かび、冷ややかな風に吹かれている。
昨夜みた夢を思い出す。
月や桜などの絵が、たくさん飾られた場所。
白い壁、金色の額縁、人影__
紗波は、白いベッドから起き上がると、
微かな絵の具の香りも混じる部屋から出た。
階段を下り、食パンをトースターに入れ、スイッチを押す。
焼けた食パンからは湯気がもうもうと立ち、側に置かれた透明な水の入ったコップの側面が曇った。
バターは香ばしく食パンの上で溶ける。
紗波はそれを、特に感情を表に出すまでもなく、かじる。
食べ終わると、昨日 洗った紺色の制服を着て、紗波は玄関の扉を開けた。
寒々しい風に髪をなびかせながら、卯花高校まで歩いて行く。
道端には枯葉が落ち、田んぼの穂は切り取られ、秋の雰囲気を醸し出している。
ヒュッと木枯らしが鳴った。