君色キャンバス
撫子色






「…ん…」



柔らかく仄かに匂うイチョウの香りに、紗波は目を覚ます。



天窓から見える空は、少量の黒を白の絵の具でとかしたような灰色の雲が浮かび、冷ややかな風に吹かれている。



昨夜みた夢を思い出す。



月や桜などの絵が、たくさん飾られた場所。



白い壁、金色の額縁、人影__



紗波は、白いベッドから起き上がると、
微かな絵の具の香りも混じる部屋から出た。



階段を下り、食パンをトースターに入れ、スイッチを押す。



焼けた食パンからは湯気がもうもうと立ち、側に置かれた透明な水の入ったコップの側面が曇った。



バターは香ばしく食パンの上で溶ける。



紗波はそれを、特に感情を表に出すまでもなく、かじる。



食べ終わると、昨日 洗った紺色の制服を着て、紗波は玄関の扉を開けた。



寒々しい風に髪をなびかせながら、卯花高校まで歩いて行く。



道端には枯葉が落ち、田んぼの穂は切り取られ、秋の雰囲気を醸し出している。



ヒュッと木枯らしが鳴った。



< 185 / 274 >

この作品をシェア

pagetop