君色キャンバス



卯花高校の、赤レンガの門の前に着いた途端、後ろから聞こえた声。



「紗波、おはよっ」



ぽんっ、と背中に軽い衝撃が走り、振り返れば小百合が笑いかけていた。



「来てくれたんだ…良かった。昨日はサボってたもんね」



小百合が、とても嬉しそうに笑う。



紗波はそんな小百合を見て、一瞬だけ歩を速め__すぐに足を止めた。



「教室 行こうよ…って、え、鞄は?」



小百合は紗波の手を見て、何もない事に驚いている。



「…学校に、置いてある」



「…へぇ、そうなんだ…じゃ、行こっか」



困ったように小百合は頭を掻いてから、紗波を促した。



紗波は何も言わず、ただ、コクンと頷いてから、小百合と隣り合って門の中へと入っていった。






靴の中には相変わらず__妖しく光る画鋲が置かれている。



上靴を持って画鋲を下に落とすと、チャリリン、と甲高い音が響いた。



小百合が、ふぅ…と、ため息を着いている。



「…まだ、してるんだ…」



紗波は何も言わず、上靴を履いた。



小百合も靴箱を開けて、白い上靴を履いている。



「…そういえば、最近 小阪先生ね、あんまり作品を出してないみたい」



「…へぇ」



紗波のその声は__黒く淀んでいた。



やがて、教室に着く。



< 186 / 274 >

この作品をシェア

pagetop