君色キャンバス
卯花高校の、赤レンガの門の前に着いた途端、後ろから聞こえた声。
「紗波、おはよっ」
ぽんっ、と背中に軽い衝撃が走り、振り返れば小百合が笑いかけていた。
「来てくれたんだ…良かった。昨日はサボってたもんね」
小百合が、とても嬉しそうに笑う。
紗波はそんな小百合を見て、一瞬だけ歩を速め__すぐに足を止めた。
「教室 行こうよ…って、え、鞄は?」
小百合は紗波の手を見て、何もない事に驚いている。
「…学校に、置いてある」
「…へぇ、そうなんだ…じゃ、行こっか」
困ったように小百合は頭を掻いてから、紗波を促した。
紗波は何も言わず、ただ、コクンと頷いてから、小百合と隣り合って門の中へと入っていった。
靴の中には相変わらず__妖しく光る画鋲が置かれている。
上靴を持って画鋲を下に落とすと、チャリリン、と甲高い音が響いた。
小百合が、ふぅ…と、ため息を着いている。
「…まだ、してるんだ…」
紗波は何も言わず、上靴を履いた。
小百合も靴箱を開けて、白い上靴を履いている。
「…そういえば、最近 小阪先生ね、あんまり作品を出してないみたい」
「…へぇ」
紗波のその声は__黒く淀んでいた。
やがて、教室に着く。