君色キャンバス
廊下に居ても聞こえる、ザワザワとした騒がしい生徒たちの声。
教室に入ると目に見えるのは、席に座って笑い合っている四人だ。
雪、春奈、真美__光。
紗波はクルリと踵を返し、廊下に出ようとした。
「…あれ、紗波…どこに」
言いかけて、小百合は言葉を飲み込んだようだった。
紗波は階段を目指すと、ゆっくりと登って行く。
踊り場の窓の向こうに見えるのは、灰色の空と__四羽ほどの小鳥。
互いにじゃれ合いながら、悠々と空を泳いでいる。
紗波は冷たい瞳でその様子を見つめてから、踊り場の手すりを掴んだ。
また、階段を上がる。
階段を登り切ると、紗波は廊下を曲がり、美術室を目指した。
陰鬱な雲を通して、おぼろげな太陽の丸い形が見える。
その光りは廊下まで届かず、紗波を照らす事もなかった。
(…寒い)
鳥肌が立つ。
美術室に着くと、扉を開けようとし、鍵がかかっている事に気づく。
何度 開こうとしても、扉は開く事をせず、紗波を廊下に閉じ込めていた。
紗波はジッと、扉にはめられた曇りガラスの奥を見る。
美術室の中で、人影が動き__やがてそれは扉に近づいて来て、カチリ、と音が鳴った。
「…あ、やっぱ久岡じゃん」
見上げると、茶色い髪が、ほんの少し冷気の入り混じった風に吹かれていた。