君色キャンバス



焦げ茶色の瞳もまた、紗波の黒髪を見下ろしている。



「…何で居るの…?」



「んー…まぁ、なんとなく」



祐輝が、ニカッと屈託ない笑顔を浮かべ、扉の前からどいた。



美術室の中は静まり返っており、開け放たれた扉からは冷たい空気が入り込む。



「…昨日は温かかったのにな。今日はマジで寒い」



「…うん」



紗波は短く、小さく返事をすると、美術室の中に入った。



そして、鍵を閉める。



少し埃っぽく、絵の具の香りがぷうんと匂う美術室は、心なしか、紗波には落ち着く空間に思えた。



「昨日の紅葉、どうだった?俺、あの赤い葉っぱ好きなんだよ」



「…うん」



紗波は、頭の後ろに手を組んだ祐輝に、曖昧な返事を返した。



窓に歩み寄ると、紗波はシャッとカーテンを閉めた。



祐輝が、それを不思議そうに見やる。



「…何で閉めんだ?」



「…見られたくないから」



「…何に?」



祐輝がそう言った瞬間、遠くから__笑い声が聞こえた気がした。



さぁっと血の気が引いていく感覚と、激しい目眩に__襲われる。



「…あーあ、久岡、居るのかな?」



「そりゃ居るでしょー!美術室にこもりっきりのぼっちなんだからねー!」



「…ま、居るんじゃない?ねぇ、そう思わない?光ちゃん…」



「居ると思うけどなぁー。居なかったら…ま、小百合とかに聞けば、解るんじゃない?」



紗波にとっての、悪魔よりも恐ろしい声が廊下に木霊した。



「…っ!」



身体が、震え始めた。



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