君色キャンバス
祐輝が、手のひらを握りしめ、四人の方を凝視している。
「…お前ら…」
ズキズキと痛む頭を押さえ、ふらめきながら紗波は立ち上がった。
霞む視界の先を、感情のない瞳で見据える。
「…光」
「光って呼ばないで。名前が汚れる」
紗波はジッと、光の瞳を見た。
光の瞳もまた、黒曜石のように鋭く、しかし__輝きがなかった。
「…光も、私と…同じ…」
光は身体をびくりと震わせ、他の四人は怪訝そうに紗波を見つめる。
「…っ、どこが同じだってんのよ。アタシとあんた…全部 違うじゃない」
光が、美術室に背を向けて、歩いて行こうとした。
「…久岡、消えて」
「え…帰るの?」
雪と春奈と真美が、名残惜しそうに光に着いていった。
そして__チャイムが鳴ると同時に、雨以外の音が、廊下から失せた。
「…あなたも、今日は…帰って」
扉の前で立ち、窓の外を眺めている祐輝に話しかける。
「…解った。じゃあな」
祐輝が、一度 紗波の方を向いてから、廊下を、四人と反対側の方向に歩いていった。
ゆっくりと扉に近寄ると、鍵をかける。
その瞬間に、思い出したように紗波を包む冷気に堪えながら、テーブルに向かい、その下に手を伸ばした。
ゴワゴワとした感触がある。
それを引っ張り上げ、紗波は床に寝転んだ。
黒い暗幕に身体を包み込むと、紗波はそっと__寝息を立てた。
寂しそうに、雨が降る。