君色キャンバス
明るく笑って、小百合は言う。
「そう?じゃ、居よっと」
小百合が美術室の中に入ると、紗波は
「鍵…閉めて」
と言いながら、奥の方へと歩いて行く。
解った、と小百合が返事をした数秒後、カチリと音がする。
白いキャンバスが目に入ると、紗波はそれの端を持ち、引っ張った。
「あれ…絵を描くの?」
「…うん」
イーゼルを出すと、キャンバスを上に置き、タンスの中から絵の具と筆を出す。
そして、水を水差しの中に入れ、パレットに赤、青、黄、黒、白の絵の具の山を乗せた。
「何を描くの?」
小百合が、床に置いていた暗幕を畳みながら、紗波に問うた。
「…小百合を、描く」
__少し驚いた様子を見せてから、小百合は軟らかく笑ってから、
「あ、うん、良いよ」
と、返した。
紗波は、キャンバスに向けた筆を、一心に踊らせ続けた。
キャンバスが、みるみるうちに小百合色に塗られていく。
小百合は、時折紗波の方を気にしながら、微笑みを浮かべて本を読んでいた。