君色キャンバス



「お風呂入る?紗波」



小百合が漫画本を置いて、ピンク色の学習チェアから立ち上がる。



紗波は床に座ったまま、小百合が渡したメモ帳に、色鉛筆で絵を描いていた。



描いているのは、カーテンから覗く、曇った夜空だ。



昼に晴れていた空は、今や灰色の雲で覆われている。



繊細で細かい忠実な絵の中で、灰色の雲は汚らしく浮かんでいた。



「…入る」



立ち上がって、小百合の学習机の上にメモ帳を置く。



「今から入る?あっ、一緒に入ろうか」



小百合が悪戯っぽく笑う。



相手を思いやってやんわり__などは皆無で、紗波はそれをキッパリと断った。



「一人で良い」



「えー、でも、せっかく…」



「良いから」



「…はいはい。先に入りなよ」



紗波と小百合は、お泊まりをした事もある仲であり、気遣いはいらない。



スタスタと風呂場へと歩いて行く。



小百合の母が、すれ違いざまににこやかに言った。



「ゆっくり入ってね〜、小百合はさっさと入らせるから」



「いえ、すぐ出ます」



制服を脱ぐと、身体を洗ってから、ソッと湯船に浸かる。



浴室は、白い湯気で包まれていった。



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