君色キャンバス
風呂から上がると、バスタオルで身体を拭き、洗濯機の上に置かれたシャツに手を伸ばした。
これでも、昔は結構 寝泊まりをしたので、紗波の服が一式 置いてある。
最期の寝泊まりは、小学五年生の時だ。
あの頃は、感情があった。
紗波は手早く服を着ると、ふわりとした黒髪を拭き、制服を持って二階に上がる。
部屋では、小百合が漫画本を手に、ベッドで寝転がっていた。
「上がった」
「上がった…って、早っ!まだ七分じゃん!浸かった??」
「浸かった」
小百合が起き上がる。
「…じゃ、入ってくるね」
紗波は返事をせず、小百合が部屋の扉を閉めるのを見ていた。
トン、トン、トン…
足音が遠ざかる。
ピンク色の部屋の中に、紗波の長い黒髪が際立っている。
紗波は制服を手に、ベランダに繋がる窓を開けた。
気づけば、雨が降っている。
白いシャツに、斑点状の薄い灰色の染みが出来て行くが、紗波は一行に気にしなかった。
辺りは濡れたカラス色。
紗波はベランダの端まで歩いて行くと、下を見下ろした。