君色キャンバス
一瞬、その言葉の意味が解らなかった。
(…認める…?誰にも、認められてないのに…?)
何を言ってるの、そう言うように光は怪訝な顔で紗波を見る。
(…なんで?…あんなに久岡に…。やったのに…?)
__優しさ、のような、影も形もないようなものが、美術室を満たしているかに感じる。
「…なんで?アタシ…。久岡に、あんな事ばっかり…したのに…」
「…流岡が、教えてくれた」
やられてもやり返さないで許す事。
自分よりも、他人を思うこと。
それが優しさ。
流岡が教えてくれたと、そう言った紗波は光を恨むような素振りは見せない。
「…認めてくれて、ありがとう」
窓から青い空が見えてくるほどに、太陽が上がった頃__光は言った。
紗波はコクン、と頷いただけだった。
「…アタシ、教室に戻るね」
光は、さっきとは一変し、晴れた表情で美術室から出て行った。
一人になった美術室で、紗波は光が出て行った扉に鍵をかけ__暗幕に包まると、もう一度、眠った。
午後、二時二十分頃、紗波は起き上がると、白いキャンバスを取り出した。
パレットに、五つの絵の具を乗せ、手洗い場で水差しに水を入れる。
筆に絵の具をつけ、水差しに浸すと、ふわりと薄い淡黄の煙が、澄み切った水の中に舞う。
紗波は時折 窓の外をチラリと見ながら、筆をキャンバスの上で滑らせた。
窓から見えるのは、青空と太陽と雲。
青を広げては、白を塗り重ね、赤に水を混ぜ、黄色を流す。
キャンバスの中で、青空と、雲に囲まれて、淡い太陽が、光る。
その太陽は、思いこそ、ないものの、明るく、輝いている。