君色キャンバス
「…なんか、前と雰囲気 変わってる…。紗波って、あんな雰囲気の絵も描けるんだ」
紗波は、一秒ほど小百合の方を見てから、一度 目を逸らしたキャンバスに再び視線を投げた。
キャンバスに、変わった様子はなく__小百合の言葉が引っかかる。
何も言わず、紗波は美術室に背を向けた。
「…帰ろう?」
「…うん」
生徒鞄の中にノートを入れ、小百合と並んで廊下を歩く。
靴箱につくと、下靴を持つと、一度 逆さにしてみる。
チャリリン、という画鋲の音は、しなかった。
帰り道、秋らしい空を夕日が照らしている。
木枯らしが枯れた木の葉を回し、九月のうちに稲が刈られた田んぼの上で、トンボが軽やかに舞う。
小百合が口を開いた。
「…ねぇ、紗波」
紗波がトンボから目を放し、小百合の方を見る。
小百合が話し始めた。
「今日、光が謝ってきて…」
「…うん」
穏やかな表情を浮かべた小百合は、少し不思議そうに言う。
「アタシともう一度、友達になってほしいって言われたんだけど…。また、なんか考えてるかな、と思ったら怖くて…。…信じて、って言われて…」
小百合は、中学時代の紗波の事があったからか、突然の謝罪に戸惑っているようだった。