君色キャンバス
青竹色
ザァザァと、天窓に雨が打ち付けられ、大きな音を出す。
紗波はベッドに座り、目の前に置いた真っ白なキャンバスに筆を向ける。
左手に持つパレットの上には、五つの湖ができていた。
紗波は時折 目をつぶり、何かを思い出すように動きを止めた。
すっと、様々な色がキャンバスに塗られていく。
薄い桜色や、黄色や、赤が、その所々に散りばめられた。
__そのキャンバスの中に、幾つもの絵が作られ、塗り重ねられていく。
月、桜、小鳥、雪や、空。
一つ一つの絵に__感情はない。
たまに、そのキャンバスを黒で塗りつぶしそうになる衝動に駆られた。
__一度 手を休めては、もう一度、筆を握る。
この日、雨が止む事はなかった。
曇り空の、その日の夜。
ガチャッ、と玄関の扉が開いた音が、家の中に響く。
布団の中に潜り、耳を塞ぐ。
「紗波!」
しわがれたダミ声が、指の間を伝って、聞こえてくる。
「最近、絵を描いてないのか!?さっさと描くんだ!」
「…汚い」
ベッドの上で、静かに呟いた。