君色キャンバス
校門をくぐり、生徒玄関に入ると、靴箱の中をまさぐる。
チラリと紗波を見ると、上靴を逆さにしているのが見えた。
いつもなら聞こえる、高く耳障りな画鋲の音__チャリリン、という音は、しなかった。
(…あれ?もしかして…)
その事に少し驚く。
紗波は無表情で、小百合の笑顔を見ていた。
__他愛ない話をしながら、教室までの廊下を歩いていく。
教室に入ると、テストだからか、いつもよりざわついていた。
「俺、ノーベンだぜ」
「とか言いつつ…どうせ九十点代だろ」
「もう諦めてるし」
騒がしい教室の中で、自分の教室に向かう。
小百合の席からは、紗波が席について準備をしているのが見える。
「テストか…」
一人ポツンと呟いて、机の上に筆箱を置こうとした瞬間、誰かが小百合の机の前に立った。
__見上げると、そこには、不安げな顔をした光が居た。
「小百合、おはよ…その、ゆ、許してくれ…ますか…」
光は落ち着きのない様子で、片眉を下げ、小百合を見る。
「…え?許して、って…あぁ」
小百合が思い出したような仕草を見せ、少し黙ってから、言った。