君色キャンバス
「うん…許してるよ。謝ったら、もう喧嘩は終わりでしょ?」
「…本当?」
光の顔が、みるみる明るくなって行く。
小百合が笑った。
「え、謝ったら終わりだって。…それより…」
「…なに?」
小百合が申し訳なさげにうつむき、恥ずかしそうに呟いた。
「…べ、勉強 教えてくれない…?ちょっと自信なくて…」
「あ…うん、いーよ…」
ぎこちない会話を交わしながら、ノートを広げて、光に教えてもらう。
「この場合、単位ベクトルを…」
「あ、そうか…解りやすいね」
光の教え方に感嘆しながら、問題を解いていく。
「教えてくれて、ありがと!」
「え、うん」
テストが始まる。
光に教えてもらった方法で、問題を解いていく。
外は冷たい風が吹くが、小百合の心の中は、温かい。
一週間後に貼り出されたテストの成績は、一位が紗波、二位が光だった。
それを見て、小百合の隣に並んだ光が物悲しげに呟いた。
「あー、また二位か…」
一番上に張り出された『久岡』の文字を、羨ましそうに見つめる。
やがて、光が言った。
「…ま、順位なんかどうでも良いしね」
その笑顔に、暗い影は見当たらない。
「そうだね」
そう言って、小百合がソッと自分の順位を隠した。
光が、小百合の行為を目ざとく見つけ、その手をどける。
「…小百合の場合は別」
「えっ、別に七十三位でいいじゃん!百八十二人居るんだよ?」
楽しげな笑い声が響く。
小百合は、一番上に乗った紗波の名前を見て、そっと心の中で囁いた。
(…紗波も、きっと…)
笑い声は、窓の外に果てしなく続く青空の向こうへと、吸い込まれていった__