君色キャンバス
恋色
十一月、十二日。
二十分休み、美術室の窓から見える中庭の樹は、ほとんどの葉が枯れ落ちていた。
寒くなってきた中庭や校庭には、誰も出ていない。
紗波は、中庭に人気がない事を見ると、ノートを手に持って、階段を下りた。
階段を下りる音の一つ一つが、踊り場に響く。
靴箱につくと、下靴に履き替えた。
鉛筆を握って、中庭に出ると、紗波は噴水の前のベンチに座った。
中庭の真上には寒空が広がっていくが、日向にあるベンチは、温かい。
目の前では、噴水がキラキラと太陽に反射し、水の結晶を煌めかせている。
六月のアジサイや秋の金木犀の花は消え、サザンカやユリオプスデージーと言った冬の花が花壇を占めていた。
ベンチに座り、しばらくの間、紗波は中庭を眺める。
冬の入り口とはいえ、噴水の周りやベンチの側は、花々に彩られていた。
「…何を描こう?」
描く物を探し、中庭を見回した。
噴水の水がキラキラと光って、祐輝と出会った時の事を思い出す。
錦鯉が優雅に泳ぐ。
紗波は、噴き出す水飛沫を見つめてから、そっとノートを開けた。
ノートの中に、中庭の不思議な雰囲気が漂い始める。
紗波が、薄い黒線を一本 引いた時、聞き覚えのある声がした。
「よぉ…久岡、だっけ?久しぶりだな、覚えてるか?」
その声に、鉛筆を止める事もなく、紗波は噴水を描き続ける。