君色キャンバス
人物が、ハハ、と笑う声が聞こえた。
紗波の隣に、遠慮しつつ座った人物は、親しげに話しかける。
「相変わらずだな…。ほら、俺だよ。松島 亮人(マツシマ アキト)。渋谷ん時、祐輝と居ただろ?」
その声に、紗波は顔を上げた。
祐輝よりも少し濃い茶色の髪と、左耳に、瞳と同じ黒いピアス。
亮人は、人懐こいような和やかな笑みを浮かべ、紗波を見ていた。
紗波が何かを少し考えたような素振りを見せた後、言った。
「…あぁ…。小百合に恋してる人」
「…は!?」
紗波が、その言葉を言った途端、亮人の顔がりんごのように赤くなった。
それを興味なさげに見て、紗波はすぐに絵の続きを描き始める。
「え、おい、ちょー待て!なに!?なんでお前 知ってんの!?誰にも…あっ…」
紗波が一言、特に何とも思っていない口ぶりで言う。
「…流岡から…聞いた」
「あー…やっぱりな。あとでブン殴って…ってあいつ、今、停学中か…」
亮人が、右手で顔を覆った。
金や赤や緑の紅葉の中で、祐輝がそう言っていたのを思い出す。
亮人の顔が赤くなったのを気にする事もなく、紗波は太陽に輝く噴水を描く。
白いノートの表面に、淡い黒白の濃淡が広がっていく。
「んだよ…あいつ…マジでいらねえわ…」
右手の指の隙間から、青空を呆れた目で見る亮人。
十秒ほど、中庭には、噴水の音と紗波がノートの上で絵を描く音だけが聞こえていた。