君色キャンバス
電信柱についた明かりが、弱々しくアスファルトを照らしているが、その明かりの意味はない。
小百合の家の横には、木が四本、遊具が二つという小さな公園がある。
三本の木の一本が、小百合の家のベランダ横にまで伸びているのを、紗波は確認した。
昔は、二階のベランダからこの木を伝って下りてきたものだ。
紗波は制服を持ったまま、やや太い木の幹に手を触れた。
ザラリとした木肌の感触。
たまに、ポロリと木屑が落ちた。
紗波は何とも無い様子で木の幹を伝い、下りていく。
そして、黄土色の土の上に、無事に着地すると、小雨交じりの空気を吸ってから、闇色の道を歩き出した。
紗波の家は、小百合の家の隣のとなり。
今の時間、学校は開いていない。
思い過ごしか、紗波が重い足取りで家に向かって歩いて行く。
(帰りたくない)
しかし、小百合にあまり迷惑はかけたくない。
それは、紗波の中では感情というよりも常識に分類されるだろう。
紗波の家に、小百合の家のような優しい光はついていなかった。
カチャ…ン…
鍵を開ける音が微かに響く。
紗波はその家に入ったが、窓からは一度も光が漏れなかった。
階段を上がって、屋根裏部屋へいくはしごを降ろす。
はしごを上がると、上からそのはしごを折りたたんで閉じた。
屋根裏部屋に入る。
その三十分後、扉が開く音がした。
「…紗波!居るか!?」
しゃがれたダミ声も。
聞こえているかどうか、その言葉に返事はなかった。
「…居ないのか…」
屋根裏部屋の真下から、声が聞こえる。
夜が更けた。