君色キャンバス
やがて、亮人が言った。
「…とにかく、本題は、気をつけろって事」
「…解ったって」
降りしきる雨の中を歩いて行くと、茜色に染まった赤レンガの門、白い校舎が目に入る。
泥の散らばった生徒玄関で上靴に履き替え、傘を傘立てに置くと、それぞれの教室へと散った。
祐輝は、教室に入り、机の上に鞄を置いて準備をする。
準備をし終わると、扉の外に出て、まっすぐに四階へ向かう。
いつも、祐輝が学校に着くのは八時二十分ほどだ。
廊下は、ザァザァと騒がしい雨の音が鳴り響いている。
祐輝が扉をコン、と軽く叩いた。
中で人影が動くのが曇りガラスに映り込み、数秒後に鍵がカチリと開いた。
「久岡、おはよ」
開いた途端に見えるのは、無表情で整った色白の顔。
この瞬間、いつも祐輝の心臓は、ドキドキと鼓動を早めた。
ぐらりと視界が揺り乱れ、紫色の模様が広がっていき__一瞬めまいがした。
「…っ…!?」
ぐっと踏ん張るが、安定する事もなく、持ち場のない手を扉にかけた。
__その瞬間、めまいはゆっくりと、波が引くように消えた。
(…え?…貧血?気持ち悪かった…?え、なに…?…疲れてんのかな、俺)
唐突に聞き慣れない声がして、祐輝は顔を上げた。
「…どうした…の…?」
聞き慣れず、いや、聞いた事のないような__声。
紗波がジッと表情を変えず、祐輝を見つめている。