君色キャンバス
その声は、祐輝を一意に心配しているような、優しく暖かい声だった。
(…え?)
黒曜石の瞳が微かに揺らいでいるのに気づいた祐輝は、笑顔を作った。
「…ちょっとフラってしただけ。大丈夫だから。…それにしても」
紗波の整った顔を見つめ、言う。
「…俺は不死身だから、心配しなくても大丈夫。…それより、久岡って」
「…あれ、流岡じゃねえ?」
突然、向こう側の廊下からぐわんと響いてきた声に、視線を向けた。
祐輝の目が見開かれる。
だらしなく制服を着崩した男子数人が、美術室を囲った。
「…ぶっ、最近 噂を聞かねえと思ったら、女んとこに通ってたのか!ギャッハハハッ!」
男子の一人が紗波を指差して、笑った。
「…は?」
祐輝が扉から手を放し、男子数人の前に立つ。
「先輩、なんで俺につきまとうんすかー?おかげでバイク没収されて、俺すーっごい迷惑してるんすよね」
祐輝が、挑発するように言う。
雨の降る音にうるさく混じっていた、笑い声が止まる。
一瞬のだんまりの後__一番 体格の良い男子が前に出て言った。
「…は?…祐輝、お前は俺らの事 舐めてんのか?ふざけんじゃねえよ、たかが悪魔だろうが。お前なんか俺らが本気になれば、一発で潰せんだぞ」
「そんな事 言って、何回も俺に返り討ちにされてるじゃないすか。俺だって、目立つ後輩を潰すような三年なんかに、従いたくねーんすよ」
張り詰めた空気、その場にいるだけで、肌にピリピリとした痛みを感じた。