君色キャンバス
高く重く、朝の自主勉強を促すチャイムが鳴り響く。
廊下には、血が飛び散っていた。
「…っ、ぜってえお前をぶっ潰してやるからな!」
捨て台詞を吐き、遠くに逃げて行く男子を白い目で見送ってから、振り向く。
「なんだあいつら。弱えな…久岡、大丈夫だったか?」
そこには、紗波がガタガタと震え、頭を抱え込んでいた。
「…久岡?」
右手を伸ばすと__その手は、振り払われた。
右手に視線を落とすと、その手は赤い血に染まっていた。
顔色が青い。
「来ないで…っ!」
「…え?」
紗波にとって、今の自分が恐怖の対象だという事に、気づく。
雨の音が激しく強くなり、紗波の恐怖を掻き立てているように見える。
(…もしかして)
__赤い右手を、後ろに隠した。
「…来ないで…っ…」
紗波が顔を上げる。
その瞳は黒く光り、窓の外に降る雨を映していた。
心にナイフを突きつけられたような、なんとも歯がゆく、自分を許せない感覚が祐輝を包んだ。
「…解った。でも、また会いに行く。…雪の降った日に」
雪の降る日は、当分はこない事を祐輝は理解していた。
__しばらく、紗波を距離を置こうと思ったのだ。
背中を向ける。
数秒 経って、美術室の扉が閉まる音が耳に入った。
(…久岡を怖がらせたのは、俺が不良だからか…?)
祐輝が、唇を噛み締めた。