君色キャンバス
「…流岡…?」
紗波が、恐る恐ると言う風に聞く。
「あぁ、流岡。…ハハッ、驚いたか?」
祐輝が、黒い髪をなびかせながら、笑った。
廊下の奥、窓外に見える白に、祐輝の黒髪が、映える。
穏やかな、いたずらっ子のような明るい笑みを浮かべ、祐輝は言う。
「…ま、あんま気にすんな。…イメチェンだよ、イメチェン」
黒いコートを着て、マフラーを首に巻いた祐輝を見て、紗波の心臓が、ドキリと波打った。
(…?)
耳にも、ピアスを付けていない。
茶色い瞳が光り、視線が紗波の羽織る暗幕に移る。
__祐輝が、苦笑した。
「…久岡、寒いのか?これ着ろよ」
そう言った途端、祐輝は黒く厚いコートを脱ぎ、雪のように白い右手で、紗波に渡した。
「俺、寒くねえから」
ジッと黒いコートを見つめ、その次に、暗幕を見る。
__右手で差し出された黒いコートを、受け取った。
紗波は、暗幕を床に落とし、そのコートをふわりとまとった。
紗波よりもずっと大きいそのコートから、祐輝の温もりを感じる。
とても、暖かい。
紗波は顔を上げると、祐輝に囁いた。
「…ありがとう」
__祐輝がすっと顔を背ける。
心なしか、耳が赤い。
祐輝が言った。
「…どういたしまして。…久岡を、連れて行きたいとこがある。紅葉ん時に言った森に」
コクン、と頷くと、紗波は美術室の扉を閉め、祐輝の後に着いていった。