君色キャンバス
走っている時、祐輝は何度も、紗波に話しかけてくる。
「雪って、他の雑音を消してくれるらしいんだ。だから雪の日は、いつもより静かなんだとよ」
その言葉を聞きながら、紗波は、祐輝に身体を預けた。
緩やかな坂道を登り、国道を通る。
静寂の街に響く、バイクの音。
街の所々で、幸せそうな恋人達が、笑顔で歩いていた。
身を切るような風も気にならず、祐輝も寒くなさそうにハンドルを操っている。
(…暖かい)
紗波は目を閉じ、その暖かさをしっかりと感じた。
バイクは人気のない道を走り、やがて、音の無い森につく。
祐輝が、紗波にバイクから下りるように促した。
そっと地面に足をつけると、十センチメートル以上、雪が降り積もっていた。
はらりと落ちてきた雪に空を仰げば、視界に入るのは、焦茶色の枯れ木の枝に、白い花が咲いている様子だった。
「…っ…」
「どうだ?すっげえ綺麗だろ」
白い花びらが枯れ木から放れ、ひらひらと舞い落ちた。
白銀の林に、足を踏み入れる。
「久岡に、ここを見せたかった」
美しい銀色の世界に、紗波は、静かに心を開いた。
風が花をなびかせる。