君色キャンバス
中には、たくさんの絵が壁にかけられ、飾られている。
月、桜、秋桜__雪。
祐輝が息を飲む音が聞こえたが、紗波はじっと前を見据えていた。
床には赤い絨毯が敷かれ、長い毛に靴が埋まる。
無味乾燥な絵と、淡く鮮烈な色の中を歩いた。
見た所、十何人かがそれぞれの絵に散らばり、絵の説明を読んでいる。
題名の隣に書かれた画家の名前は、『小阪 弘』。
紗波がグッと右手を握り締めた。
「…あいつか」
祐輝が見つめる視線の先にいるのは__黒い服を着た、一人の男だった。
白と茶と黒の入り混じった髪に、 左手に若紫色の液体を入れたワイングラスを持っている。
胸に『画家 小阪 弘』と書かれた札を下げ、スーツを着た人物と話していた。
「…いやぁー、しかし、小阪先生の絵はきめ細かく繊細で、まさに芸術ですな」
「いえいえ。そんな大層なもんじゃありません」
祐輝が軽く、紗波を励ますように、ポンと背を押した。
__一瞬 立ち止まった後、紗波は二人の男に向かって歩み寄って行く。
祐輝も紗波の隣に立ち、歩いた。