君色キャンバス
雪がワザとらしく、紗波に聞こえる程度で声を潜める。
「でもさぁ〜…久岡さんってぇ、マジで気取ってるよね〜。ねぇ、春奈ちゃん、真美ちゃん」
「そうね」
春奈がニヤッと笑いながら紗波のその背中を見た。
「自分の事、天才とでも思ってるのかもね?本当、訳が解らないわ」
「だよね。ほんと、何なのって感じ。クラスの底辺に居るような奴なのにね。バッカみたい」
真美が眉を顰めた。
紗波の机の上には、『死ね』『馬鹿』『調子乗るな』などの決まり文句が書かれている。
しかし、紗波は眉一つ動かさず、涼しい顔をして何も言わず準備をする。
きっと、紗波をイジメるためだけに、こんなに朝早くから登校しているのだろう。
ご苦労としか言いようがない。
紗波はその文字に目を止めずに、手早く準備を終わらせ、立ち上がった。
手には、数学のノートと鉛筆。
雪や春奈、真美が睨んでいるのに構わず、悠々と教室を出て行った。
遠くから、雪の怒声が聞こえ、それは廊下に木霊する。
下靴に履き替え、中庭に出た。
花の上や草に、透き通った水滴がいく粒も付いている。
昨夜の雨の名残。
少し雲が薄くなっているようだ。