君色キャンバス



応接室には、暗く黒く、淀んだ空気が立ち込める。



小阪が憎々しく、紗波を睨む。



「なんのつもりか知らんが…」



紗波の瞳に映るのは、若紫色のワインと、黒い思い。



闇色が渦巻く応接室。



コンコン、と応接室の木の扉がノックされ、外から入ってくる二つのキャンバス。



「えー、片宮さんに聞いたんですけど…小阪先生の娘さんなんですか!?めっちゃ美人っすね!」



若い男がそう言って紗波に近寄ろうとした瞬間、小阪はそれを遮った。



「出ていけ!」



二枚の、少し手のひらからはみ出す位のキャンバスを置いて、出て行く若い男。



ガラスのテーブルの上に、筆や絵の具が所狭しと並べられる。



小阪の顔色が蒼い。



紗波はすっと一本、細い筆を持った。



「…クソッ…!」



小阪が忌まわしげに吐き捨て、太い筆を一本 持った。



パレットの上に五つの山を作る紗波と、沢山の色の湖を作る小阪。



震える手を止め、紗波は、少量の黒と多量の白を混ぜ合わせ、キャンバスに線を引いた。



昼間見た銀色の雪林を、思い浮かべる。



キャンバスの上に、白い花が咲き乱れ、光りに当たって輝いていく。



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