君色キャンバス









「…本当に紗波さんは小阪先生の娘さんですか?あの感情のない表情など、まるで似ていないのですが…」



応接室と全く同じ造りの部屋で、それぞれの黒いソファに座り、片宮は紅茶を飲みながら言った。



祐輝はムッとするように片宮を見る。



「…感情がないのは、小阪とかいう奴と…過去が原因であって、久岡のせいじゃありません。それに、小阪 弘は久岡 踉のアナグラムなんですよ?」



挑発的にそう呟き、祐輝は透明なガラスのテーブルに置かれた紅茶を持ち上げる。



雪林の中で、紗波がもう一つの闇色を語ってくれた。



小阪 弘は私の父親、小阪 弘が題名だけ発表している絵は私の絵だと言っていた。



アナグラムの事を言ったのも、紗波。



「…小阪 弘は、久岡 踉を並び替えた名前…」



おさか ひろ、ひさおか ろう。



祐輝は、眉をしかめながら、りんごの香りがする紅茶を啜った。



「…まぁ確かに、小阪 弘は久岡 踉を並び替えたような名前ですね。でも、偶然という事もあり得る」



一気に飲み終え、息を吐く。



祐輝が時計を探して部屋を見回すと、それを見兼ねた片宮が言った。



「…今は六時十分前です」



「…どうも」



素っ気なく言い、窓の外を見ると降り舞う、月のような白雪。



片宮が笑う。



「絵の完成を待ちましょう。あのサイズならすぐに描けます。あまり緊張せず」



片宮は、カップをテーブルの上にカタリと音を立てて配した。



祐輝もそれに習い、コンと音を鳴らす。



「…ちょっとトイレ行って良いすか。…気持ち悪くて__」



「あぁはい、どうぞ。突き当たりです」



祐輝は扉を出ると、赤い絨毯の上をゆっくりと歩いて、お手洗いへと向かう。



途中、右手で口元を押さえ、小さく咳き込んだ__









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