君色キャンバス
月白色
あの日から、何日が経ったか。
夜、もう何時かも解らない真夜中の病院の前に、紗波は立った。
亮人から聞いた部屋のナンバーを元に、病室の場所を思い浮かべる。
雲は一つもなく、夜空は一等星や三等星が光って、美しい。
三日月が空に上がって、冷たい空気を放っている。
病室は、隣の公園に面した形でそこにあった。
隣の公園に行き、祐輝の居る病室を見ると、明かりはついていない。
病室の前に木が生え、寒そうに焦げ茶色の枝を揺らしていた。
悲しげに音を鳴らす細い枝と、それを支える太い幹。
紗波は木に近寄ると、節に足をかけ、登り始めた。
幼い頃から小百合との家を行き来したため、登る事には慣れている。
「…っ…」
窓の外の、太い枝にまたがると思い出す、夏の海と秋の紅葉__冬の雪林に、祐輝とバイクで出かけた事。
コン、コン、と軽く窓をノックして、いつもとは違う事を感じる。
いつもなら、紗波がノックをする事はなかった。
そんな小さな事から__祐輝が病に蝕まれているのを理解する。
青いカーテンが引かれ、窓の中で祐輝が驚いた表情をして、立っていた。
その顔色は蒼い。
窓が開く。
「…久岡…ここで何してんだ?」
黒い髪を輝かせ、茶色い瞳に灯りをともしたまま、祐輝はそう言った。